(八)万葉集にハルを探す③
更に探索を続ける。四季の歌を集めた巻八の相聞歌である。
一四五〇
心ぐきものにぞありける春霞
たなびく時に恋の繁きは
【訳】切なく苦しいものね。春霞がたなびくようにハッキリしないまま、セックスを重ねるのは。
一四五一
水鳥の鴨の羽色の春山の
おほつかなくも思ほゆるかも
【訳】水鳥の鴨の羽色の様な春の山。そんな風に、私たちの関係ははっきりしないと思うのよね。
一四六〇
戯奴がため吾が手もすまに春の野に
抜ける茅花ぞ食して肥えませ
【訳】あなたのために、私がせっせと春の野で摘んできた菜花よ。これを食べて肥ってね。
一四六四
春霞たなびく山の隔れれば
妹に逢はずて月ぞ経にける
【訳】春霞がたなびく山が僕たちの間を隔てている。キミとセックスできずにひと月が過ぎてしまった。
「妹」は肉体関係を持った女性。
巻十の相聞歌に移る。これは歌会の歌を寄せ集めたものだろう。
一八九〇
春日野に鳴く鴬の泣き別れ
帰ります間も思ほせ吾を
【訳】春日野で鶯が鳴いているわ。鶯のカップルが泣いて別れを惜しんでいるのね。あなたも帰り道ずっと私のことを想っていてね。
一八九一
冬こもり春咲く花を手折り持ち
千たびの限り恋ひ渡るかも
【訳】冬が終わり、春に咲く花を手折って持つ。こんな風にキミを抱いて何遍もセックスし続けたいのだが。
有名な柿本人麻呂の歌。過激な訳になってしまった。ちょっと「ハル」の臭いがする。花=女と考えれば、それを手折って、持ち=所有し=抱いて、千たびの限り=何遍も、恋ひわたるかも=セックスし続けたい。
一八九二
春山の霧に惑へる鴬も
吾にまさりて物思はめや
【訳】春山で霧の中に迷いこんだい鶯は、僕以上に思い悩んでいるのだろうか。
一八九四
霞立つ永き春日を恋ひ暮らし
夜も更けゆきて妹に逢へるかも
【訳】霞が立っている長い春の一日、ずっとキミとセックスしたいと思いながら待っていた。夜も更けてきて、やっとキミとヤレるんだ。
通い婚で通うのは夜。だから、日中、ずっと欲望を堪えて待っていたというのだ。
一八九五
春さればまづ三枝の幸くあらば
後にも逢はむな恋ひそ我妹
【訳】春になるとまず咲き始める三枝のように元気なら、またセックスできるのだよ、いとしいキミと。
一八九六
春されば垂る柳のとををにも
妹に心に乗りにけるかも
【訳】春になると枝垂れ柳がたわむように、キミのことが心に乗りかかってくる。
一八九七
春さればもずの草潜き見えずとも
吾は見やらむ君があたりは
【訳】春になればもずが草の下に潜ってしまって見えなくなるが、それでも僕は見ていようキミの家のあたりを。
一八九八
容鳥の間なくしば鳴く春の野の
草根の繁き恋もするかも
【訳】容鳥が絶え間なく鳴いている春の野原には草が一杯生えている。その草の根のように一杯セックスしようね。
一八九九
春されば卯の花くたし吾が越えし
妹が垣間は荒れにけるかも
【訳】春がくるたびに卯の花を傷つけて越えて入ったキミの家の垣間が、今は荒れてしまっているな。
一九〇一
藤波の咲ける春野に延ふ葛の
下よし恋ひば久しくもあらむ
【訳】藤が波打って咲いている春の野原。下を見ると葛が蔓を延ばして生い繁っている。葛の下は暗くて夜のよう。今夜のセックスは時間がかかるだろうなあ。
この歌の意味がよくわからない。原文は「藤浪 咲春野尓 蔓葛 下夜之戀者 久雲在」で、「下夜之戀者」
一九〇二
春の野に霞たなびき咲く花の
かくなるまでに逢はぬ君かも
【訳】春の野に霞がたなびいている。そんな中、咲いている花がある。こんなになるまで私、あなたとセックスしていないのよ。
一九〇八
春されば水草の上に置く霜の
消につつも吾は恋ひ渡るかも
【訳】春になれば水草の上にあった霜が消えていく。でも、セックスし続けたいという僕の想いは消えないんだ
一九〇九
春山に霞たなびきおほほし
妹を相見て後恋ひむかも
【訳】春山に霞がたなびいている。そんなぼんやりとした中でキミとセックスしたね。またヤリたいと思ってるんだ。
一九一〇
春霞立ちにし日より今日までに
吾が恋やまず片思ひにして
【訳】春霞が立った日から今日まで、セックスしたいという思いはつのるばかり。片思いなんだね。
一九一一
さ丹頬ふ妹を思ふと霞立つ
春日もくれに恋ひ渡るかも
【訳】キミの事を思うと霞が立ちこめて春の日が隠れてしまったよう。悶々とキミとのセックスを想っているんだ。
一九一三
見渡せば春日の野辺に立つ霞
見まくの欲しき君が姿か
【訳】見渡すと春日野に霞が立っているわ。あなたと逢ってセックスしたい。
一九一四
恋ひつつも今日は暮らしつ霞立つ
明日の春日をいかで暮らさむ
【訳】キミとセックスしたいと思いながら今日一日を暮らしました。モヤモヤとした霞立つ春の日。明日どう過ごそうかな。
一九一五
我妹子に恋ひてすべなみ春雨の
降るわき知らに出でて来しかも
【訳】愛するキミとセックスしたくてしょうがない。春雨が降っているのも構わずに出てきてしまったよ。
一九一六
今さらに吾はい行かじ春雨の
心を人の知らざらなくに
【訳】今さらお帰りにならないわよね。春雨が降っているし、春雨のこころは、お分かりになるわよね。
一九一七
春雨に衣はいたく通らめや
七日(降らば七夜来じとや
【訳】春雨くらいでお召し物がずぶ濡れになることはなくってよ。七日降っているから七日来ないというの?
一九一八
梅の花散らす春雨しきて降る
旅にや君が廬りせるらむ
【訳】梅の花を散らすほど春雨が激しく降っているわ。あの人は旅先でどう暮らしているのでしょうか。
一九一九
国栖らが春菜摘むらむ司馬の野の
しばしば君を思ふこの頃
【訳】国栖の人々が春菜を積んでいる司馬の野原。その名前の様にしばしばあなたを想っています。
一九二〇
春草の繁き吾が恋大海の
辺による波の千重に積もりぬ
【訳】春草が茂っているわ。あなたとセックスしたいという気持ちが、大海の岸辺によせる波のように幾重にも重なっているのです。
一九二一
おほほしく君を相見て菅の根の
長き春日を恋ひ渡るかも
【訳】菅の根のように長い一日。ずっとあなたとのセックスのことばかり想い続けていたわ。
一九二三
白真弓今春山にゆく雲の
行きや別れむ恋しきものを
【訳】今、春の山に行く雲のようにあなたは別れていくのね。私がこんなにセックスしたいのに。
一九二五
朝戸出の君が姿をよく見ずて
長き春日を恋ひや暮らさむ
【訳】朝出発するあなたの姿よく見ることができなかったわ。長い春の一日をあなたとのセックスのことばかり考えて暮らすのね。
一九二六
春山の馬酔木の花の悪しからぬ
君にはしゑや寄せぬともよし
【訳】春山のあしびの花の様に素敵なあなたとなら、噂されてもいいわ。
一九二九
狭野方は実になりにしを今更に
春雨降りて花咲かめやも
【訳】狭野方は実になっているの。いまさら春雨が降ったとしても花など咲くわけがないわ。いい人ができたから、いまさらちょっかい出してきてもムリよ。
「さのかた」はあけびだといわれている。この歌の前に次の歌がある。
一九二八
狭野方は実は成らずとも花のみに
咲きて見えこそ恋の慰に
【訳】狭野方は実にならなくてもいいから、せめて花だけでも咲かせてくれ、この恋を慰めるためにも。ねえ、結婚しなくてもいいから、このセックスしたい気持ちを慰めるためにつきあってくれよ。
誘いに対する答えである。フラれたようだ。
一九三〇
梓弓引津の辺なる名告藻が
花咲くまでに逢はぬ君かも
【訳】引津の海岸にある名告藻の花が咲くまでにはあなたと逢ってセックスできますか?
梓弓は「引津」の枕詞です。
これに対する返歌は
一九三一
川上のいつ藻の花のいつもいつも
来ませ吾背子時じけめやも
で、「いつでもいいわよ」という返事。
一九三二
春雨のやまず降る降る吾が恋
ふる人の目すらを相見せなくに
【訳】春雨が止むことなく降りに降っている。セックスしたいと想っているのに、あの人に会わせないというのね。
一九三三
我妹子に恋ひつつ居れば春雨の
彼も知るごとやまず降りつつ
【訳】キミとセックスしたいと想っていると、それを知っているかのように春雨が降り止まないんだ。
前の歌の返歌。
一九三五
春さればまづ鳴く鳥の鴬の
言先立てし君をし待たむ
【訳】春になると最初に鳴く鳥は鶯だけど、その鶯のように最初に言葉をかけてくれたあなた。待っています。
一九三六
相思はずあるらむ子ゆゑ玉の緒の
長き春日を思ひ暮らさく
【訳】こっちが思っても相手にしてくれないあの娘、やれやれ長い春の日を思い暮らすのか。
かなり長くなってしまったが、いかがだろうか? どうやら「春」に「ハル」の意味はなさそうだ。だか、この時代の男女のことがよく分かった。では、そのあたりのことを、次回もう少し調べてみよう。