ささやかな奈落のはじまり⑨
(四)
玲子は脚を大開きにして椅子に縛り付けられていた。がっしりと固定されて身体の自由がまったく効かない。
「いい眺めだろう?」竜造が訊いた。
庭に向けて性器を曝している。
そこに誰か入ってきたら。さあ見て下さいとばかりに露出した浅ましい姿を見られてしまう。
庭から眼をそむけると、「せっかくの庭だ。しっかり見てもらわんとな」と、つねに顔が庭を向くよう髪の毛を椅子の頭に縛りつけられた。
庭には太陽の光が溢れている。
突然、一人の男が視界に飛び込んできた。
作業服を着ている。庭師だろうか?
でっぷりと太った男。
「やあ、別嬪さん!」
親しそうに声をかけてきた。聞き覚えのある嫌らしい声。
田中だ。
「えらい格好でんなぁ。ハハハ、おマンコまる見えやんか!」
あられもない姿を露骨に表現されて、玲子はキッと声の主を睨んだ。そして、竜造の方を向き、「せめて何か掛けて下さい」と訴える。だが、竜造の返事はない。
再び、庭で甲高い声がした。
「なかなか、ええ庭でしょ。ワシが手入れしてますねん。ここまで世話をするのは大変なんや。女子のように毎日毎日慈しんでやらんとあかん。そやけど、女子とは違って嘘はつかんし、騙しもせえへん。手を掛けたら手を掛けただけきれいになるんや」
神経に障る声だった。
「ワシの仕事ぶり、そこで見とったらええわ」
男が視界から消えた。しばらくして、再び視界に入ってきたとき、男はドラム缶を転がしていた。そして、玲子の視界の中央にそれを置いた。
何をする気なのか?
男は再び見えなくなり、今度は青いスーツケースを手にさげて現れた。
「それはっ!」
玲子は慌てた。
「そうや、あんたのスーツケースや」
「いったい、何をする気なの!」
玲子は声を荒げたが、田中はちっとも慌てる様子がない。
「整理や。あんたの持ち物を整理するんや」
男がスーツケースを開ける。詰め込んできた替えのワンピースや下着類が見えた。
男はそれを鷲づかみにすると、ドラム缶の中につぎつぎと放り込んでいく。
「私の服をどうするのよっ!」
「せやから、いうたやろ、いらんもんは捨ててしまうんやないか」
「いらないもの? ど、どういうことよっ! それっ、私が着るんだから」
「何をいうてんのや、頭の悪い女やなあ、ここにいたら、こんなもんいらへんやないか」
玲子の顔からサーッ血の気が引いた。
「ここにいたらこんなもんいらへん」という田中の言葉が頭の中でワンワン響いている。
田中はつぎからつぎへとスーツケースの中身をドラム缶の中に放り込んでいく。
「いやあっ、もうやめてえっ! やめてよう!」
そんな玲子の叫びもむなしく、ついにスーツケースが空になった。