すべては秘密の夜から②
「グラスが空いています。どうですか、もう一杯? ちょっと面白いお酒がありますよ」
啓太が悪戯っぽく笑った。なかなか魅力的な笑顔だった。
「どんなお酒なんですか……?」
啓太はバーテンダーの方を見ると、
「マスター、ロングアイランド・アイスティーをお嬢さんに……」といった。
「紅茶なの……?」
カクテルだといっていたのに頼んだのはアイスティーだ。私は不思議に思って聞き返した。
「まあ、見ててご覧なさい……」
バーテンダーがシェーカーを振っている。中の液体をロンググラスに注ぎコーラを加えた。
「どうぞ、召し上がれ……」
レモンが添えてある。一杯飲んでみる。
「紅茶のようだわ!」
「実は、紅茶は一滴も使ってないんですよ。七十年代にアメリカ、ニューヨーク州のロングアイランドで飲まれたそうなんです。味は紅茶なんですが、実はウォッカベースのお酒です」
「とても飲みやすいわ」
「でも強いからご用心ですよ」
啓太が微笑んだ。
私たちの距離は更に縮まり、肩を寄せるまでになった。
「実はカクテルにはセクシーなネーミングが多いんです。さきほどのセックス・オン・ザ・ビーチもそうですが、ビトゥイーン・ザ・シーツなんていうのもあります。あなたの飲んだキッス・イン・ザ・ダークの他にも、キッス系ではキッス・オブ・ファイヤー、ソウル・キッスなんてのもあります」
「カクテルって面白いのね。私、こんな処は初めてなんです……」
「なかなかいいでしょう。マスターはどんなお酒でも作ってくれます」
私のグラスが空いているのを見て、啓太が
「つぎは相当きわどいのを頼んであげましょう。マスター、オーガズムを!」
驚いて私は啓太の顔を見た。ニヤニヤしている。
「誤解しないで下さい。深い意味はありません。これもトム・クルーズの映画で有名になったカクテルです」
マスターがカクテルグラスに白い液体を注いで私の前に置く。一口飲んでみる。
「甘いわ……」
「そうなんです。甘くて刺激的なんです」
啓太が私の手の上に掌を重ねた。
ハッとして手を退けようとするが、酔いが相当まわっていて身体がいう事を聞かない。
「これはオーガズムなんですが、その他にスクリーミング・オーガズムやディープ・スロ-トなんていうのもあるんです」
「嫌だわ……私、酔ってしまったみたい……」
「大丈夫ですよ。僕が責任を持って送っていきます。さあ、このオーガズムを飲み干しなさい」
啓太はそういうと白い液体の入ったカクテルグラスを私の手に握らせた。
私はそれを持ち上げると、なんとか飲み込んだ。甘さが口の中に拡がり、やがて喉が刺激され、胃の中まで熱くなっていく。
啓太が私をじっと見つめている。
私はグラスを傾け、今度は最後まで飲み干した。
身体中が燃える様に熱い……。
ボーッとしてしまっていて、気がつくと私は啓太に垂れ掛かっていた。
啓太がいろいろと語りかけているようだが、何をいっているのか分からない。
ただ、ジャズベースのズシリとした低音がさきほどから子宮に響いていた。