ささやかな奈落のはじまり⑦
(三)
「さあ服を脱いでもらおう」
竜造が命令を出す。その時、玲子は卓の上ですっかり混乱していた。
総髪の男の話が終わるやいなや、竜造に手をつかまれ卓の上に押し上げられてしまったのだ。
玲子は「調教師」という言葉に怯えていた。
お金と引き換えに奴隷になることは理解していた。一週間、この「旦那様」と呼ばれる男に身体を任せていればよいと思っていた。
ところがどうだろう、玲子には「調教師」がつくという。
調教? いったい何をされるのか?
従順になるように躾られるのか? それとも?
話が違う。すでに奴隷になることに合意しているのに、どうして調教されなければならないのか?
いったい何のために?
私は騙されたのかもしれないと玲子は思った。
その考えは玲子を奈落に突き落とした。
恐怖のあまり、竜造の声が聞こえていない。
「なにをしている!」
竜造が机を叩いた。その大きな音で玲子はハッと我にかえった。
「……私……」
「嫌なのか」竜造が睨みつける。
「……」
玲子は答えられない。
「どうした? 恥ずかしがる柄でもないだろう。早くしろ、旦那様がお待ちかねだ」
「ここで裸になるのですか……」
「そうだ。真っ裸になって、身体の隅々を旦那様にお見せするのだ」
「……」
「嫌なのか? なんでもないことだろう。さっさと脱がんかっ!」
激しい口調で威圧されて、玲子はしぶしぶワンピースのボタンに手を掛けた。
指が震えて、思うようにボタンが外せない。ひとつひとつの動作に時間がかかる。
「なにをもたもたしているっ!」
竜造の威嚇。再び卓がバシッと鳴る。
玲子はすくみ上がった。
震える手でなんとか全部外し終えた。
服をたくしあげて、首を抜く。
ブラジャーとパンティ姿になった。
脱いだ服をどうしようかと迷っていると、また叱責の声。
「どういう躾をされているんだ! 脱いだ物はきれいにたたんで、隅に置くのが常識だろうが」
「はっ、はいっ」
身体の震えが止まらない。それをなんとか押さえ込んでワンピースをたたみ、しゃがんで卓の端に置いた。
「さあつぎだ!」
ブラジャーの肩紐を外し、前に回してホックを外して脱ぎ取る。
乳房が露わになる。
「手を下ろせ」
総髪の男がいった。仕方なく手を太股の横に置く。
男達がジロジロ見つめているのがわかる。
「形のいい乳房だ。色白で肉付きもよい。均整が取れている。尻は大きいが、十分に引き締まっている。男好きのする身体だ」
総髪の男がそう評した。
自分がいい身体をしていると思ったことはない。だが、同僚と温泉旅行に行ったとき、皆から羨ましがられたことを玲子は思い出した。
「下だ」
玲子は躊躇う。
「ふん、なんとも諦めが悪いことだな」
総髪の男が冷たく笑う。
「なにを躊躇うことがある。生まれたままの身体になるだけだ。身体を締め付けているものを取り払って自由になればよい」
人前で裸になるのは初めてではない。だが、こんな屈辱的な状況で裸になったことはなかった。
玲子は仕方なくパンティに手を掛ける。
くやしさのあまり涙がこぼれ落ちてきた。
奴隷の身分に落ちて、こんな男達のいいなりにならければならないことが惨めだった。