アレクサンドロス戦記(六五) 第三章⑥

「おい、おい、なんて格好なんだ」
ヘファイステイオンが素っ頓狂な声を上げた。天幕から出てきたアレクサンドロスの格好があまりに異様だったからだ。
「どうだ、似合うだろう」
アレクサンドロスはヘファイステイオンの前で一回転してみせた。
「目立ちすぎるぞ!」
アレクサンドロスがかぶっている冑には、なんと両側に白い大きな鳥の羽根飾りが立っていたのだ。さらに持っている盾にも羽根が生えている。この格好だと、敵に誰がアレクサンドロスかすぐ分かってしまうだろう。
「目立ち過ぎて危険だ。みんな一斉にその羽根めがけて押し寄せてくるぞ!」
「そんなこと計算済みだ」
「だが、片っ端から狙われてしまう。いかに初戦はこちらが有利だとしてもだ。敵もそのうち体勢を立て直してくるだろう。そうしたら狙われる。王様が倒れたらそれでおしまいじゃないか? 後ろにどっしりと構えているのが王様ってもんだぜ」
「あいにく、そんな事は僕には似合わないさ。この姿で敵のど真ん中に切り込んでやる。そうすれば、ペルシャの馬鹿どもも、アレクサンドロスがいかに勇猛で、刃向かうことがどんなに危険な行為か思い知るだろう」
ヘファイステイオンはアレクサンドロスの態度が昨夜とすっかり様変わりしているのにあきれた。
昨日の夜は子羊の様に震えていたではないか。いつもこうだ!
人前と二人だけでいるときとでは全く様子が変わる。それがアレクサンドロスなのだ。
昨日の軍議もそうだった。あれだけ、将校たちを前に自信たっぷりに自分の戦略を披露したではないか。パルメニオンを罵倒するところまでいったのだ。それが天幕に戻るとどうだ。人が変わったようになって、「この戦には絶対に勝たなきゃいけない」と何度も口走りながら、ワインを薄めずにがぶ飲みした後、涙を流して震えていた。
戦に勝たなければならない重責と明日、死ぬかもしれないという恐怖の中で彼はもがいていたのだ。
だから服を脱がせて、抱いてやった。

唇を触れて乳首を愛撫してやると、必死にしがみついてきた。
それがどうだ。今、戦を前にして、アレクサンドロスはまた自信たっぷりな王に戻った。
彼は今、まさに「神」を演じようとしている。いや、本当に「神」になろうとしているのかもしれない。だが、彼は決して「神」ではない。
とても弱い一人の若者にすぎないのだ。

  • 筆者
    office-labyrinth
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