刺し貫かれた時間⑩
玲子は困惑した眼差しを竜造に向けた。
一瞬、竜造が舌なめずりした様に見えた。獲物を前にした獣の様だと玲子は思った。
「十分に出来るさ――」
突き放すように竜造がいった。。
「でも……」と玲子も食い下がる。「どうやって?」
「手が縛られていても――口があるだろう」
とても静かな口調で竜造がいう。
「口?」
玲子は聞き直した。何をいっているのか分からなかったのだ。
「そうだ。口だ。お前の顔についている口だ。旦那様のものを咥えたいやらしい口。その口で廊下を掃除してもらおう」
「口で?……どうするのですか?」
「決まっているだろ、舐めるのさ。舌を長く突き出して、自分の出した物をぺろぺろと舐めあげて、きれいにするんだ」
「そんなぁ! あんまりです!」玲子が大声で非難した。
「何があんまりなんだ。小便に吐瀉物、全てお前が吐き出した物だ。これをすっかり飲み干して、お前の体に戻す」
「そ、そんな……ひどい……」
あまりの惨めさに消え入りそうな声になる。
「何がひどいもんか! 汚したものを自分で元へ戻せといっているだけだ。当然のことだろう。それとも、このまま放置して、誰かに掃除させようと考えているのではないだろうな」
「そ……そんなつもりはありません。私は、縄を解いてくれさえすれば、よろこんで掃除します。手が縛られていては、掃除などできないといっているのです。ましてや、口で掃除するなどそんなひどい事はできません」
「縄を解く? 馬鹿いえ。どうして奴隷の縄を解かなければならない。縛ったままだ。その姿で掃除するんだ。口で掃除するしかないだろう。何をぐずぐずしている。素直にいうことを聞かないと、またひどい目にあうことになる。少しは頭を働かせて、学習効果のあるところを示してみろ」
そうなのだ――竜造の言っている通りだ。玲子はここに来てから受けた仕打ちを思い返した。あまりにひどい仕打ちであった。抵抗すればするほど責めはどんどんエスカレートしていったのだ。もう諦めていう通りにする方がいいのだろうか? 何も考えいわれるままに受け入れる方がきっと楽なのかもしれない。
「さあ、早くはじめてもらおう」
竜造の声がして、ビシッと尻を鞭で叩かれた。
「や、止めて下さいっ!」
玲子は唸った。
「お前がきれいに掃除をし終わるまで、俺はお前の尻を打ち続けてやる」
再びお尻を鞭でぶたれる。もう何が何だか分からなくなった。
いうことをきこう。口で掃除をしよう。それしかない。それしかないのだ。
玲子は顔を小水の池に近づけた。
その姿勢では腕が背中高くに持ち上げられ、関節が痛んだ。
少しの辛抱だ。直ぐに終わる、直ぐに終わると玲子は自分にいい聞かせる。
「ほら、そのションベンの中に舌を突き出せ!」
玲子は舌を思い切り伸ばした。ツンとアンモニア臭が鼻をついた。
惨めだ。なんということをしているのか? だが、他に方法がないのだ。
玲子は伸ばした舌を排泄物の海の中に入れる。しょっぱい味がした。
「いいぞ。舌全体を使って、舐め上げろ」
命じられるままに、玲子は舌で床を舐める。胃液がウッと逆流してくるのを感じる。この臭い――このすえた臭いは耐えられない。
玲子はできるだけ多くの液体を舌ですくって、口の中に運ぼうとした。だが、所詮、人間の舌は犬や猫とは構造が違う。液体物を十分に掬い取る様にはなっていないのだ。一度に処理出来る量は微々たるものだった。
「何をぐずぐずしている。ちっとも減っていないじゃないか?」
ビシッ、ビシッと、容赦なく尻が鞭打たれた。
痛いっ、お尻が痛い。きっと、お尻が赤く腫れ上がっている。
玲子は顔を顰め、呻き声を上げ、痛さを堪える。だが、そうすると作業が止まってしまう。目の前の小水の処理はいっこうにはかどらないのだ。
「口を尖らせてズズーッとすするんだ」