恥ずかしい夜⑤
私はブルブルと身体が震えているのを感じた。でも確かに、コートを着たままで食事というのもへんだ。
私は意を決して、コートのボタンを外し始めた。でも、指が震えてうまくいかない。ずいぶんと時間がかかって、コートを脱ぎ終わり、男に渡した。
男は私の姿を見て、一瞬、眼を見張った――様に見えた。受け取ったコートを係の女に手渡す。女もあきれた顔で私を見ている。
男は明らかに営業用とわかる作り笑いを顔にうかべて、
「では、お席までご案内致します。どうぞ、こちらへ」
というや、スタスタと歩いていく。
その後を、ほとんど上半身裸同然の私が、黒ストッキングとガータベルトがむき出しになったミニドレスを着て、首には刺激的なチョーカーを巻き、赤いピンヒールを履いた私がついていくのだった。
レストランの客の視線がいっせいに集まるのを感じた。
食事を楽しんでいる客のテーブルの側を通ると、ヒソヒソ声が聞こえた。
私は頭の中が真っ白になっていた。それでも、なんとか窓際のテーブルのところまでたどり着いた。
「こちらです。素晴らしい夜景が見えます」
男は椅子を引いて、まず私を座らせ、次に啓太を席に着かせた。しばらくするとウエイターがメニューを掲げてやってきて、私の姿をみて表情がこわばったが、メニューを啓太に差し出した。
頁を繰りながら、啓太が鮮やかに注文する。
続いて女性のソムリエがやってきた。同じく私の姿をちらっと見る。
「お飲み物はいかがしましょうか? トスカーナの赤のいいのが入っておりますが」
啓太はワインリストを見つめ、
「ほう、それはお嬢さんに合うかな?」と訊いた。
「きっと、お気に召しますわ」
ソムリエは私の胸の谷間に刺すような視線を浴びせけ、軽蔑したような表情を見せたが、すぐに営業用の笑顔に戻った。
「じゃあ、それにしよう」
啓太はワインリストを閉じて、ソムリエに返す。
「承知しました」
女は尻を振りながら去っていった。
その姿を見送ると啓太が立ち上がり、つかつかと私の側に寄ってくると、覆いかぶさるように身をかがめた。その瞬間、啓太の手がドレスの中に伸びて、乳房に着けたパッドが掴み取られた。
それはあっという間で、あたかもドレスについた糸くずを取るようなさりげない動作だったため、人に気付かれた様子はなかった。
啓太は私の肩を軽く叩き、「反則だよ……綺麗な身体を隠すなんてね」と優しく耳元で囁いた。
「預かっておく」
啓太はそれを上着のポケットに入れた。