恥ずかしい夜④
(二)
「この間は追い出したようで、本当に申し訳ない事をした。怒って、来てくれないのじゃないかと心配だった」
啓太の顔をみて私は思わず泣き出しそうになった。胸の中に飛び込んで、拳でその胸を叩いて、ワンワンと泣きたかった。
でも、私は涙をこらえて啓太の手を握り、一言、「会いたかった」ということしか出来なかった。
啓太は私の肩を抱いた。
「僕も会いたかった。今夜はこのあいだの埋め合わせを十分にさせて欲しい。上のレストランを予約しているんだ。まずは、東京の夜景を見ながら、一緒に食事をしよう」
まずい! 私は凍りついた。そのまま啓太の部屋に行くと考えていた読みが外れた。
「啓太さんの部屋に行くんじゃ……」
「それは後にして、まずは腹ごしらえをしよう」
啓太はじっと私の目を見つめ、悪戯っぽい笑顔を見せた。背中に手を置き、「さあ」と力を加える。
「いいレストランを予約しているんだ。アネックスの最上階なので、申し訳ないけれど、そちらまで歩く事になる。いいかい」
「でも、私……コートの下は」といいかけようとした時に、啓太が「いいね」と念を押してきた。結局、私は頷いていた。
啓太はズンズン歩いていき、私はついていくのがやっとだった。アネックスに着き、エレベータで四十階に上がる。その間、私はどうしようか必死に考えていた。でも、考えがまとまる前に最上階に到着してしまった。
エレベータを出ると、洒落たレストランがあった。私たちは店に入る。その途端、満点の夜景が眼に飛び込んできた。
「浅井ですが……」
啓太が名を告げると黒服の男が深々とお辞儀をし、「お待ち申しておりました」と慇懃な調子でいった。
「窓際の見晴らしの良いお席をお取りしております」
それから、私を見て、「お嬢様、コートをお預かりしましょうか?」と訊いた。
「あの……わたし……」
私はドギマギした。これを脱ぐと、裸同然になるのだ。
「そうだね。お願いします」
すぐ啓太が答え、私にコートを脱ぐよう促した。私は泣きそうになって啓太を見る。
啓太は微笑んでいた。