第五話 武者紫⑨

2021年01月21日

夢を見た。
時代劇にでも出てきそうな部屋だった。
天井には太い梁が通っていて、そこから縄が数本伸び、ギシギシと軋んでいる。張り詰めた縄をたどると、そこに武者紫の縄衣装を着けた「私」がいた。梁から逆さ吊りにされているのだ。
「私」はなぜだか長い髪をしていて、だらりと垂れた髪先が畳に届かんばかりだ。
片方の足は、爪先が天井を向くような形で宙に吊り上げられ、もう片方は膝を曲げた状態に固定されて、無理矢理、大きく股を開かされている。腕は背中で高小手に縛られ、乳房の上下を乳縄がギュッと締め付けている。
逆さになった上半身を「私」はくの字に折り曲げる。
片方の乳房の付け根が縄でぐるぐる巻きにされていて、その縄の先が梁に繋がっているから、身体を持ち上げていないと、乳房に体重が掛かってしまう。力尽きて身体が伸びると、乳房が上に引っ張られてもげそうになる。その痛さに「私」は悲鳴を上げ、身体を起こすが、また腹筋がピクピク痙攣し始め、耐えきれず力を抜く。そして、乳房がちぎれそうになって悲鳴を上げる。その繰り返しだ。乳房は奇妙に変形し、赤黒くうっ血してしまっている。

部屋には二人の男がいた。
二人とも髷を結っている。一人は脇に刀を置いているから、どうやら武士、いや汚れた着物で月代も伸び放題だから浪人のようだ。もう一人は町人風である。ヤクザとその用心棒といったところか。二人の前には酒壺が置かれ、そこから茶碗に酒をついで、「私」を肴に酒盛りの真っ最中だ。
「いい女だ。吊られて悶え苦しむ顔がたまんねえや」
「ああ、縛りがいのある女だな」
「旦那に両替屋の娘のかどわかしをお願げえしましたが、こんなにうまくいくとはね」
「おぬし、だいぶふっかけるつもりだな」
「もちろんでさあ。あそこはしこたま金を持っている。一人娘を帰してくれるなら、いくらでも出すでしょう」
「金と交換に帰してやるのか?」
「いえいえ。そんな甘ちゃんじゃありませんぜ。そう簡単には帰せねえ。金だけ巻き上げたら、女郎屋なんぞに売り飛ばすつもりで。たっぷり可愛がった後ですがね」
「お前も人が悪いな。だが、こんな上玉なら責めがいがある」
「旦那、この紫色の縄は旦那の仕業で?」
「いや、着物をひん剥いたら、縛られた身体が出てきやがった」
「ていうことは、この娘、かなりの好き者」
「そうなるな」
「なら、遠慮することはねえ。たっぷりと責めて啼かしてやりましょう。ほれ、口を開けて涎を垂らしてやがる」
「吊られていい気持ちになるとは不逞アマだ」
「では、始めますか」
ヤクザは床から竹刀を取り上げると、その先で紫色に変色した乳房をグイグイ突く。
「やめて、痛い、痛い、もう堪忍して!」
「私」は身体を揺らせて叫び続ける。揺れば揺れるほど縄が肌に食い込んでいく。
「もっといい声で啼きやがれ!」
竹刀で撲たれる。お腹、お尻、背中。バシリバシリと大きな音がする。叩かれたところが真っ赤に腫れ上がる。
浪人の方は紫色の蝋燭を手にしている。なぜか炎も紫色だ。
「もっといい気持ちにしてやるか」
熱蝋がポタリポタリと股縄の上に落ちてくる。
クーッと声を上げて、「私」は身体を折り曲げる。そして、何も考えずに身体をそらすと、乳房に激痛が走り、大きな悲鳴を上げる。
「可哀想になあ、もうちょっとで乳房がちぎれちまうぜ!」
ヤクザがケタケタ笑う。
蝋燭が顔に近づいてきた。
「肉を焼いてやろう。女、苦しめ、もっと苦しめ!」
浪人は熱蝋責めでは飽き足らず、肌を直に炎で焼くつもりらしい。
目の前に炎が近づく。
熱い、睫がチリチリと焦げる。肉の焦げる臭い。
「額を灼いてやるぜ。これでどうだ!」
浪人は蝋燭を下に移動させる。
炎が迫る。熱い。身体中から汗が噴き出る。「私」は苦痛の余り身体を激しく動かす。その時、蝋燭の炎が髪の毛に飛んだ。
「しまった!」
髪がボーッと紫色の火焔に包まれていく。
頭が燃える。そして、全身に焔が拡がっていく。「私」が紫色の焔の中に消えてしまう。
燃える。燃えている。すべて燃えてしまう。燃え尽きてしまう……。

私は夢から覚めた。
全身、グッショリと汗をかいていた。
武者紫がすっかり濡れて、少し締まった気がした。

  • 筆者
    office-labyrinth
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