第五話 武者紫⑥

2020年04月06日

「なあに?」私は興味津々で訊いた。
「玲子の身体を使って、この縄を完成させて欲しいんだ……」
「えっ……私の身体を使って?」
「そう、緊縛を続けると玲子がいい気分になっていくように、縄も使っているうちに、人肌になじんでくる。肌から脂分を吸い取って柔らかくなっていくんだ」
「そうなの……で、私は何をすればいいの?」
この縄に、たっぷりと玲子の脂を染みこませて欲しい。同時に玲子の香りもつけて、玲子仕様の縄に仕上げてもらいたいんだ」
「そんなことできるかしら……」
私の返事を待つ事なく、あの人は縄を掴んで、振り投げた。縄先が飛んで、束がほどけた。あの人は縄の中央部を掴んで、私の首にかける。そして、胸の上でこぶを作り、その下にもこぶをこしらえる。そして、あの人は手際よく、いくつも、こぶを作っていく。縄が私の股間を通る。最後の二つのこぶが秘芯と菊門をきっちり捉えた。
縄尻は、つぎに背中を通って、首にかけた縄を通って左右に別れて前面に移動し、胸のこぶとこぶの間を通り……そして両側に引くと、胸の処に菱形が形づくられた。あの人は私の身体に、いくつも菱形を作っていった。
菱縄縛り!

私はあの人がやっていることが理解できた。
「さあ、玲子の身体に縄を掛けた。今度、会うまでの間に、この縄に玲子の脂をたっぷりと吸わせるんだ。いいかい、縄を外しちゃあいけないよ」
 いっていることが理解できなかった。
「でも、トイレはどうするの? お風呂はどうなるの?」
私は抗議した。でも、あの人は平然としている。
「トイレは、縄をずらしてすれば問題ない。お風呂はだめだ。今度会うときまで、お風呂はお預けだ」
「えっ、そんなのひどいわ……」
「何がひどいものか。怪我で入院したと思えばいい。汚れた処は濡れたタオルで拭けば、身体は清潔に保てる。お風呂に入ると、せっかくの脂肪分が洗い流されてしまうじゃないか。次に会うときまで、お風呂に入らずに、たっぷりと玲子の身体になじませるんだ。ちょっとの辛抱だから、我慢して欲しい」
あの人は、ちょっとの辛抱、というところを、ゆっくりと、くぎって発音した。
「約束してくれるね。今度会うときまで、縄を解かないって」
「仕事はどうするの、縛られたままで会社に行くの?」
私はほとんど泣きかけであった。
「そうだ、そのままで会社に行って、いつもの通りの生活をすればいい。ただし、定期的に、ちゃんと縄をしているか、携帯で写真を撮ってメールで送るんだ。いいかい、縄を外したとわかったら、承知しないよ。玲子を徹底的にひどい目に遭わせてやるし、僕との仲もこれっきりになる。僕の言うことをきけるね。ほんとうに、ちょっとの間だからね」
私は、ちょっとの間というのは嘘だと思ったが、あの人とこれきりというのも嫌だった。仕方なく、こっくりと頷いた。
そして、私は、淡い武者紫に染められた、少しがさがさとした麻縄で縛られた肌の上に直に服を羽織り、何事もなかったように、電車に揺られて帰宅した。

  • 筆者
    office-labyrinth
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