(六)万葉集にハルを探す

まず万葉集の概要を述べておこう。
万葉集は全二十巻、四千五百首あまりの歌を集めた現存するわが国最古の歌集である。奈良時代末期から平安のごく始めにかけて成立し、新たに歌集を編纂したというよりは、すでにあった複数の歌集を寄せ集めたものと考えられている。
取り上げられている歌はその性格よって「雑歌」「相聞歌」「挽歌」の三つに分類される。
「相聞歌」は「恋歌」だといわれることが多いが、どちらかというと相手を念頭においた「掛け合い歌」である。まず歌が贈答され、それに対して「返歌」で答える。そのやりとりを繰り返すのである。折口信夫は「宮廷・豪家の宴遊の崩れなる肆宴には、旧来の習慣として、男女方人を分けての唱和があつた。さうして乱酔舞踏に終るのであつた。さう言ふ事情から、宴歌と言へば、相聞発想を条件としたのである」【一】と述べている。「挽歌」は、人の死、葬礼に関する歌。「雑歌」には、相聞歌、挽歌以外の歌が収められている。
万葉集は巻ごとに特徴があり、第一巻、第二巻は天皇の年代順に歌が集められ、第八巻と第十巻には四季(春・夏・秋・冬)ごとに相聞歌、雑歌が並べられている。また東歌という名の第十四巻は「東国の舞踊の詩曲及び、風俗歌」を集めたものである。

さて、このように膨大な万葉集にどう取り組もうかと僕は考えた。多くの先人たちによって解釈されつくされた万葉集である。僕の出る余地など残っているはずがない。熟慮の末に思いついたのは、ブログのタイトルである「ハル色」を万葉集の中で探してみようということだった。

「ハル色」とは何か? 説明が必要である。
「ハル色」は僕の造語であり、「いろけと男女間の情欲・性的行為にかかわる様々なことがらを表すもの」と定義している。

「春画」「春歌」「春をひさぐ」など「春」を含む言葉にはセックスに関係するものが多い。
広辞苑第七版でキーワードを調べてみる。

はる 【春】
 (草木の芽が「張る」意、また田畑を「墾(は)る」意、気候の「晴る」意からとも)
①四季の最初の季節。陰暦では立春から立夏の前日まで、1月・2月・3月、気象学的には太陽暦の3月・4月・5月、天文学的には春分から夏至の前日までに当たる。
②正月。新春。
③勢いの盛んな時。得意の時。「わが世の―」
④青年期。思春期。
⑤色情。春情。「―をひさぐ」「―を売る」

しゅん‐じょう【春情】
①春の景色。春らしい様子。
②いろけ。色情。

しゅん‐しょく【春色】
①春のけしき。春景。春光。
②なまめかしい様子

つまり「春」には、季節の春に関わる意味とともに、「いろけ」「男女間の情欲」「性的行為」の意味を持っている。そこで、季節の春の意味と区別するために、セックスの意味を持つ「春」を「ハル」と表記することにしたのだ。

「春」が性的な「ハル」の意味を持つのはいつ頃からか? これが次の疑問である。
「春画」「春本」が活発に作られた江戸時代には、「春」が「ハル」の意味を持っていることのは明らかだ。その以前、どのあたりからそうなったのか? そして、どうしてそうなったのか?
僕はいつも疑問に思っていた。だが、これを調べるのは大仕事である。だから、少しずつ進めなければならない。
その取っ掛かりが「万葉集」である。これから数回のブログに、僕が「万葉集」の中に「ハル」を探した結果について書いていこうと思っている。

参考文献

【一】折口信夫「万葉集研究」(昭和三年)

 

  • 筆者
    office-labyrinth
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