めくるめく出会いの風景③
(三)
「先輩、今晩空いてません?」
真理絵がそう声を掛けてきたのは、新年の挨拶も終わってしばらくしてからだった。
真理絵は去年の春、短大を卒業して入社した新人で、私が仕事を指導していた。
もともと軽薄な性格なのか、遊びに夢中で仕事に手がつかない。いろいろとミスが多く。その分を私がカバーすることになった。
余りの事に見かねて、時々、厳しく指導するのだが、聞いているのかいないのかわからない。まったく、イライラさせる存在であった。
その彼女から声を掛けてくる事はこれまで無いことだった。
「何、吉川さん?」
「実は経理のしのぶちゃんと今晩、お酒を飲みに行こうと話してるんですけど、先輩もどうかなと思って」
しのぶは真理絵の同期で、いつも二人でべちゃべちゃと話している。
私が二人の席に招かれることが意外だった。
「私なんかが参加していいの?」
「実は先輩にいろいろ相談にのって貰いたい事があるんです。是非、お願いします」
真理絵は明るくそういった。
「そうだなあ……今頃は仕事も暇だしなあ……」
「お願いしますよ。新宿に出ようと思ってるんです。先輩の意見が聞けたらなと二人で話してたんです」
真理絵が強くいうので、私は二人に付き合う事にした。
「七時に新宿の『えびすや』っていう居酒屋を予約してます。遅れないで来て下さいね」
私は承知した。でも、「遅れないで」は無いだろう、自分こそ遅刻の常習犯なのに。
仕事が終わって新宿に出た。
人混みが凄い……大都会の熱気には何時も圧倒されるので、自ら進んでこういう場所に来ることはない。
「えびすや」は有名な店で場所は直ぐ分かった。
入り口を入ると奥の方で真理絵としのぶが手を振っていた。
「先輩、遅いですよ」
真理絵は立って私を迎えると奥の席に誘った。
「まだ、約束の時間になってないけどなあ」
「実は、私たちがちょっと早く来ちゃったんです」と、真理絵は舌を出した。
奥の席に座ると、しのぶが「先輩、何飲みます?」と聞いた。テーブルにはもう既に酎ハイのグラスが置かれていた。二人で飲み始めていたようだ。
「じゃあ、私も同じの」
しのぶは店員を呼んで酒と料理を要領よく注文した。
それから、職場のこと、上司のこと、恋愛のことなど、とりとめも無い会話が続いた。
仕事のことで叱ると、敵視するような表情を見せる真理絵が、今日は何時になく楽しげに話しかけてきたのが嬉しかった。
二人はどんどん酒をすすめ、自分達も飲んだ。
「ねえねえ……先輩はカレシいるんですか?」
突然、真理絵がそう訊いてきた。
おっと嫌なことを訊いてくると思った。俊介と別れたばかりなのだ。
「今はいないわね」と平然を装って答える。
「ねえ、先輩のタイプって、どんな感じの人なんですか?」
と真理絵はしつこい。瞬間、頭に俊介の顔が浮かんだ。
「そうだなあ。ちゃらちゃらしたのはダメね」
私は彼の顔を頭から追い払い、
「しっかりとした、堅実な人でないとね」
と願望を込めていった。