めくるめく出会いの風景⑤
(四)
居酒屋を出ると直ぐにしのぶが、
「ゴメンね……実はこの後、彼の処に行く事になっているんだ……」と手を振って帰ってしまった。
「先輩、ちょっと冒険してみません?」
二人になると真理絵がいった。
「実は気になっているお店があるんですけど、独りだとなかなか入りづらくて……」
時計を見るとすでに十時近くになっていた。居酒屋で三時間も飲んで喋っていた事になる。
いつもならそこで帰っていただろう。でも、さきほどから真理絵としのぶが自分の身体を褒め、もっと化粧をして着飾れば男達が放っておかないと随分と持ち上げたので心が動いたのだ。
「先輩はもっと冒険すべきです」という真理絵の言葉が引っかかっていた。
「どんなお店なの?」
「バーなんです。いかにも大人って雰囲気なので、先輩が一緒なら心強いんです」
大人のバーか、ちょっと冒険してみてもいいかな……と私は思った。
「じゃあ、冒険してみようか……」
「ありがとうございます」
真理絵はペコリと頭を下げた。
「ここなんです」
真理絵に連れられて行った店は新宿西口からちょっと行ったビルの三階にあった。
ビルの入口には確かにバーの看板があった。エレベーターはなくバーのある三階まで階段を上らなければならない。
何の変哲もない階段を上っているときは、とてもバーに向かっているという感じはしなかったのだが、三階まで行くと重厚な木の扉があり、それを開けると中からしっとりとしたジャズが流れてきた。
中は照明が落とされていて薄暗く、カウンターと十名位が座れる空間がある。壁や調度品はクラシックな雰囲気に統一されていて、確かに非常に落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。
カウンターの中の壁にはたくさんの酒瓶がずらりと並らんでいて、その前でかなり年配のバーテンダーが笑みを浮かべていた。