アレクサンドロス戦記(十八)第一章④

「君は、女はまったくだめなのか?」
ベッドの上に仰向けになって、ヘファイスティオンは隣で寝そべっているアレクサンドロスに聞いた。先程の興奮がまだ十分に冷めきっていない。
「ダメというわけではない……どうして、そんな事を聞く?」
「あの画家に女房をくれてやったではないか」
「女房? ああ、あのテッサリア女のことか?」
「確か、カンパスペと言った。いい身体をしていたぞ……」
ヘファイスティオンの言葉にアレクサンドロスは笑った。
「あれは押しつけられた女だ。僕はオヤジの二の舞はゴメンだ。知っているだろう。オヤジは何人もの女を作った。それで、結局、身を滅ぼしたんだ。だから、僕は画家のアッペレスにあの女をくれてやった。だがそれには口実がいるだろう。そこで一計を案じた。
まず、あの女に、お前は本当に美しいと誉め、その美しさを永遠に残しておきたいから絵を描いてもらおうと持ちかけた。アイツは喜んで承諾した。次にアッペレスを呼んで、時間がかかってもいいから、奥方の最高の肖像画を何枚も描いてくれと頼んだ。

そして、その日が来た。僕はアイツに画家の前で服を脱ぐように命じた。その美しい裸体を残したいって言ってね。全裸にして、両脚を大きく拡げたポーズを取らせる。すべて剥き出しになっているところをアッペレスが描くんだ。いくつもいやらしいポーズをデッサンさせた。それが一日目だ。アッぺレスは明らかに興奮していたよ。あの女、初めこそ嫌がっていたが、そのうち股間が濡れてきやがった。
僕はアッペレスに作業を続けるように頼んだ。そして、二日目からは、僕は立合うのを止めた。

裸の女と若い画家が二人だけで部屋に籠もっていた。アッペレスはアイツに夢中になってしまったよ。僕はそれほどいい女だとは思わなかったが、アッペレスは随分と気に入ったようだ。アイツの方もまんざらではなかった。
それであの女をくれてやったのだ。アッペレスはたいそう喜んで……いまだに僕に忠誠を誓っている」
「……なるほど」
「僕はこれからペルシアに行く。だから、女は足手まといなのだ。僕には君がいる、ヘファイスティオン。ずっと僕の側に居て欲しい」
ヘファイスティオンはもう一度アレクサンドロスの身体を抱いた。数々の戦さで鍛え抜かれた肉体がとても頼りなげに思えた。
これからも王を守ろう――それがヘファイスティオンの思いだった。

しかし……アレクサンドロスが自分たちをなぞらえたアキレス、パトクロスと同じ運命が、自分たちにも訪れようとは、この時点では二人はまったく考えもしていなかった。

  • 筆者
    office-labyrinth
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