アレクサンドロス戦記(四九)第二章⑫

「父上……」
パルメニオンは怪訝な顔で息子を見た。真剣な表情だった。何か思い悩んでいる。
「どうした?」
フィロタスは小さな声で父に尋ねた。
「父上は陛下をどうお考えになりますか?」
パルメニオンは、息子か何故そんなことを聞くのか不思議に思った。
「なにかあったのか?」
少し間があった。
「いえ、特に何かあったという訳ではないのですが……」とフィロタスが言いにくそうに答える。
パルメニオンは茶を一口啜り、柔和な微笑を息子に向けた。
「陛下は勇敢なお人じゃ。それに戦にかけては天才的だ……儂はカイロネアの戦の折に存分にそれを見てきた」
「ええ、それはその通りです……」
フィロタスがボソリと言った。
「なにか、言いたいことがありそうだな」
フィロタスは父に心の中を見透かされている様に思った。
「私は陛下に疎まれているのではないかと思うのです……」
パルメニオンは一瞬、真剣な顔つきになったが、すぐに柔和な笑みに戻った。
「馬鹿を言うのではない。どうして疎まれているものか。疎まれている者が騎兵ヘタイロイの隊長という要職につけるはずがないではないか。まさに陛下の信頼が厚いという証拠だ」
「それはそうなのですが……」
「なんだ、お前らしくもない。何を思い悩むことがある」
「実は、父上……」
フィロタスは堰を切った様に話し始めた。
「あれは父上がペルシアに出征されていた時の事です。フィリポッス陛下のご婚礼での事件は父君もご存じでしょう。あれで陛下はひどくお怒りなられて、アレクサンドロス様を勘当されました。しばらく、アレクサンドロス様はイリュアに隠れておいででしたが、フィリポッス陛下はお気持ちを変えられて、アレクサンドロス様を呼び戻されたのです」
「それは儂も知っておる」
「ペラに戻られてからのアレクサンドロス様は以前の快活さを失っておられました。無理もありません。母親が離縁され、王宮における自分の地位に危機を感じていたのですから。新しい王妃が産んだ子供が女の子であったことで、アレクサンドロス様はやや落ち着きを見せたように見えました。そんな時、カリアからの使者がやってきたのです」

  • 筆者
    office-labyrinth
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