アレクサンドロス戦記(四八)第二章⑪

(四)再会

ヘレスポントスを渡ったマケドニア軍の主隊は、渡しのあるアビュトスから少し内陸に入ったアリスベの野営地に集結した。ここでアレクサンドロスがトロイから戻るのを待つのである。
たくさんの天幕が張られていた。フィロタスはその間を歩いている。兵たちは忙しく働き、これからの戦の準備に余念がない。

父パルメニオンの天幕は、東征の副司令官にしては、こぢんまりしていた。

先王フィリポッスがこの地に先遣隊の隊長として父を派遣して以来、フィロタスが父に会うのは久しぶりである。その間にいろいろな事件が起こった。マケドニアはすっかり変わってしまった。久しぶりに父に会えるのだと思うと、熱い思いが胸に込み上げてきた。天幕の前で衛兵に来訪を告げ、フィロタスは中に入った。

パルニオンが奥から現れて、笑顔で息子を迎えた。最後に会った時とはずいぶん違って見える。ぐっと年をとっている。この地での苦労が一層深い皺となって、顔一杯に刻みつけられていた。

「父上、お元気そうでなによりです」
「おお、フィロタスか、よくやって来た。この度の戦では、ヘタイロイ騎兵隊を率いると聞いた。大出世ではないか!」
「ええ、父上。それにニカノルはヒュパスピテス(近衛歩兵部隊)の総指揮官です」
「聞いているぞ。お前たちのこれまでの立派な働きを陛下が評価してくださっている証だ。儂も親として鼻が高い。ヘクトルは今回が初陣だな」
「そうです。陛下のお側で、相当扱かれているようです」
「ハハハ、だが、あいつの事だ、いつも元気いっぱいだろう」
「そのようです」
パルメニオンには三人の息子があり、長男のフィロタスは二五、次男のニカノルが二一、末子のヘクトルは十七になる。
パルメニオンはフィロタスに椅子をすすめ、従卒にハーブ茶を持ってこさせた。爽やかな香りが部屋に立ちこめる。
「このたびの遠征で、やっと父上のご苦労が報われます」
フィロタスが静かな口調で言った。
「いやいや儂の苦労などなんでもない。それより、ペルシア軍は手強いぞ、決して侮ることなく、武勲に励まねばならん。儂等はヘレスポントスを渡ってから、一度は敵の隙をついてエフェトスまで攻め入ったが、またここまで押し戻されてしまった。八千の兵ではできることは限られている……」
「父上のご苦労をお察しします」
「だが、これで兵力が十分になった。本格的な戦ができる。幸いなことに、ペルシア軍の動きは今は不活発だ。マケドニア軍の強さを奴らに見せてやろうではないか」
従卒が部屋を出ていった。フィロタスは父の側によると声を潜めた。

  • 筆者
    office-labyrinth
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