一万一千本の鞭③
(二)
黒鬼の手帖から【鞭打ち】
「ムチ」は人や動物をぶつための道具であり、「笞」や「鞭」という漢字が当てられるが、「笞」は竹製、「鞭」は革製の打撃具を意味する。
人に対する「ムチ」の使用は古く、主として拷問や刑罰の目的で使用されてきた。革製の「鞭」は主に西洋で発展してきたものであり、一本鞭、バラ鞭、乗馬鞭などの種類がある。一本鞭とバラ鞭は棒状の柄(ハンドル)の先に、革やエナメル製の紐を取り付けたものであり、一本鞭では紐が一本、バラ鞭は複数に分かれている。紐の先端部を様々に加工したものも存在し、九尾猫鞭のように先端に錘をつけて打撃力を高めたバラ鞭や、一本鞭でも先端を複数に分岐させたものがある。
一般的に、紐の数が多いほど、また紐が太いほど、打撃力が分散し、与えるダメージは小さくなる。典型はバラ鞭で、打撃時に発する大きな音に比べて、威力はは小さい。これに対して、一本鞭は破壊力が大きく、場合によっては一撃で皮膚を切り裂くことができるほどである。また、乗馬鞭は、打擲したい場所を的確に捉え、打撃力も様々に変える事が出来るという特徴を持つ。どのような鞭を選択するかは、被験者の鞭に対する耐性と打擲の目的によって異なる。
与えるダメージの程度は鞭の種類ばかりでなく、打ち方によっても異なる。ダメージが小さな打ち方としては、バラ鞭を回転させながら連続で打撃する方法や、手首だけでスナップを効かせて、素早く何度も打撃を与える方法がある。垂直あるいは水平に振り抜く方法は標準的なものである。一方、バラ鞭であっても、身体全体を使い、更にスナップを効かせると被験者に対してズシリとした重い衝撃を与えることが出来る。
被験者との距離によってもダメージの程度が変わる。一般的に先端部はダメージ力が大きい。また、身体に巻き付くように打つと、慣性によって先端部が高速に肌を叩き、激しい痛みを与えることになるので注意する必要がある。
一般的に、被験者は鞭の打撃を避けようと無意識に身体を捩る場合が多いので、吊りや磔等による拘束と併用するのが効果的である……
太陽が燦燦と差し込む部屋の中で玲子は縛られた姿で竜造を待っていた。
時間がゆっくりと過ぎていく。何をされるのかと怯える玲子にとって、それはジリジリと火にあぶられているかのように長い時間であった。
やがて視界に竜造の姿が入った。ギラギラを燃え盛る太陽を背に、真っ黒な影がゆっくりと近づいてくる。
「待たせたな」
竜造が手にしているものが見えた。
黒い鞭――柄は三十センチほど。先が複数に分かれている。
竜造が腕を伸ばし、鞭が鼻先に突きつけられた。ぷーんと革の臭いが鼻をつく。垂れ下がった先端が乳房に当たっている。
激しい恐怖が沸き上がってきた。
「いっ、いやですっ!」
鞭から逃れようと、玲子は身をくねらせて暴れた。だがギシギシと縄が鳴るばかりで、逃れることなどできはしない。
「奴隷の分際で儂らに指図するとどうなるのか、これでお前の身体に分からせてやる」
低い声が部屋に響いた。