第二話 夜汽車①

2019年11月15日

第二話 夜汽車

それは昨日の夜の事だった。私は義母の敏江さんに、「明日、北海道旅行に出かけるから」と告げられた。
「明日は火曜日よ。学校に行かなきゃ」というと、お義母かあさんは平然と、
「大丈夫よ。学校には札幌のおばあさんが亡くなったので暫く休ませます、といっておいたから」と答える。
私は耳を疑った。
「えっ、札幌におばあさんなんていないじゃない!」
「嘘よ。そういったら簡単に休めるでしょ。いい、話を合わせておかなきゃ駄目よ――」
義母かあさんは、そんなことをしゃあしゃあといった。
「明日の夜の、上野発の夜行よ。ねえ、楽しみでしょう」
義母かあさんはうきうきしている。
「だから――明日は学校へ行っちゃだめよ。家で出発まで大人しくしているの。なにせ、おばあさんのお葬式に行くんだからね」
義母かあさんがそうくぎを刺した。
「なんでまた、札幌になんて行くのよ?」
「それはお楽しみよ――」お義母かあさんはそういって、ふふふと笑う。
私は嫌な予感がした。この人はいつも私を傷つける。

今朝はとってもいい天気だった。でも、私は学校には行けず、家でじっとしていた。お義母かあさんは朝から大忙しで、あちこちに電話をかけていた。
三時頃になると、お義母かあさんが私の所にやって来て、「それじゃあ、準備を始めようね」といって、青い箱を手渡した。やはり――嫌な予感は的中していた。
「これって、浣腸じゃない。どうするのよ?」
義母かあさんが私にくれたのは、いちじく浣腸が五個セットになった箱だった。
「そんなのする事は決まっているでしょ! 旅行に行く前にお腹の中を綺麗にしておくのよ」
義母かあさんは叱るような調子になっていた。
「なんで五個もあるのよ」
私は口答えをした。でも、お義母かあさんを怒らせたら怖ろしいことになるのを私は知っている。
「五回やるのよ。それくらいしないと、あんたのお腹の中、綺麗にならないでしょ。やってあげようか?」お義母かあさんは眼を吊り上げた。
「いい、自分でやる」
私それ以上、いいあっても無駄だとあきらめて、その箱を受け取った。
「終わったら、お風呂でアソコをしっかり洗うのよ!」
後ろから、お義母かあさんが追い打ちをかける。
トイレで五回の浣腸を続けて済ませ、お風呂で隅々まで洗い上げると、お義母かあさんが私にセーラー服を差し出した。
私の高校の制服はブレザーなので、「なぜ?」と訊こうとしたけど、いっても仕方ないと思って、それを受け取った。

汽車は夜の七時の出発なので、それより早く、六時四十五分に私たちは上野駅に着いた。
私は素肌の上にセーラー服という出で立ちで、お義母かあさんの命令でパンティを穿いていなかったから、下腹部がスースーしていた。
素肌の上に直に服を着るのは何か刺激的で、尖った乳首がゴワゴワした布地で擦れて疼いていた。
列車はすでにホームに着いていた。
私たちが乗る車両は最後尾で、その端に私達の部屋があった。
部屋とはいっても開放型のB寝台なので、通路との間にはドアなんかない。部屋には二段ベッドが二組取りつけられていて、お義母かあさんが下で私が上の寝台になった。

直ぐに五十くらいの頭の禿げた小太りの男の人が大きな袋を二つ持って部屋に入って来た。袋の中には弁当が入っているようだ。
 お義母かあさんが挨拶した。どうやら顔見知りの人のようだ。
「山田さん、今日はどうもありがとうございます。お弁当も買ってきてもらって、ほんとに助かりますわ」
「いやー、敏江さん。こんな楽しそうな企画に声をかけていただいて、こちらこそ感謝していますよ。これは弁当と飲み物、お酒も入っています」
山田さんはお義母かあさんに袋を手渡すと、チラッと私を見た。
「これが例のお嬢さん?」
「娘の玲子です」
山田さんは、頭から爪先までを舐め回す様に私を見つめたあと、
「なかなか可愛いじゃない」といった。
「歳はいくつ?」
私が答えようとすると、
「十八なんですよ」と、横からお義母かあさんが答えた。
これもまた嘘だ。本当はまだ十六なのだ。
山田さんは私に向かってニコッと笑い、「楽しみにしてますよ」といった。
私はその時、彼のいう「楽しみ」の意味を分かっていなかった。

すぐにもう一人、今度は恰幅のいい、ごま塩頭の男の人が入ってきた。
山田さんが腰を低くして挨拶している。話の内容からすると、山田さんの得意先の人のようだ。山田さんがお義母かあさんに、
「富山さんです」と、紹介した。富山さんは部屋をぐるっと見渡すと、
「なんでB寝台なんだ」と山田さんにくってかかった。
見かねてお義母かあさんが、
「カーテン一枚だけなんて刺激的ですわ」と答えた。それで富山さんは納得したようだった。
「全部で何人なんです?」と山田さん。
「皆さんを含めて六名。あとの四名は隣の部屋です。ちょっと見てきますわね」
 お義母かあさんが隣に様子を見に行っている間、富山さんがいやらしそうな目つきで、じっと私を見ていた。

すぐにお義母かあさんが、ぞろぞろと男の人をひき連れて、戻ってきた。
「ご紹介しますわね、こちらは、白木さん」
度の強い眼鏡をかけた、やせぎすでインテリ風の男の人が無表情で頭を下げた。
「で、次は――井上さん」
「井上です。小さいですが会社を経営しています」
井上さんは頭の禿げた小さな人で、訊かれもしないのにそんな事をいった。
「そして――鈴木さん」
優しそうなお年寄りの紳士だ。
「そして、最後は――菅原さん」
「菅原です」
眼光の鋭い、五分刈りの怖ろしそうな男の人がジロリと私を見て、ニヤッと笑った。
「本日はこのツアーにご参加いただき、ありがとうございました。是非、皆様の思い出に残る旅になりますよう、スタッフ一同頑張りますので、よろしくお願いします」
私は思わず吹き出した。
スタッフといっても私とお義母かあさんの二人だけなのだ。
「この列車は上野駅を出ますと、大宮、宇都宮、郡山、福島、仙台に止まります。検札が来るまではみなさま、お席でおくつろぎいただき、それが終わりましたら、この部屋に集まっていただけますでしょうか? お食事とお酒をお召し上りいただきながら、今後のご説明をさせていただこうと思います」

  • 筆者
    office-labyrinth
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