第四話 祭り③

2020年01月22日

(二)

ズンズン……ズンズン……ズン

祭りが行われる永年寺の前に差し掛かると、太鼓の音が大きくなった。
境内は今夜の祭りの準備で忙しそうだった。前にトラックが止まっていて、係りの人が忙しそうに照明道具を境内に搬入している。
今夜、この境内に村中の人が集まるのだ。祭りはこの寺の行事だが、どちらかというと神様の方が似合っている。といっても、この寺の中には鳥居があり、神仏一体なのだ……そもそも日本人には神も仏もなかったのが、明治の廃仏毀釈で寺が取り壊された。でも、この村まではその力が及ばなかったようだ。

境内の前の道を進むと役場がある。その前で、私は後ろから声をかけられた。

「玲子か?」
振り向くと若い男が立っていた。
 それが誰か分からず、当惑していると
「やっぱり、玲子だ。垢抜けしているんで見違えたわ……」
 と、男は笑って私の顔を覗きこむ。
「俺、白石猛。ほうら、お前の一級上の……」
といって男はぺこりと頭を下げた。
彼が猛なのだ。昔の粗野な雰囲気はすっかり消え失せて、真面目な公務員風になっているのに私は驚いた。
「ごめんなさい。分からなかったわ」
そう言いながら私もお辞儀をして、お互い顔を見あわせてプッと吹き出した。
「来てくれんかと思った」
「この案内は猛さん?」
「そうよ……祭りの実行委員をしとるんだ。村から皆な出て行ってしもて、村の中の人間だけじゃあ、祭りが成立せん。だから、村を出て行った皆んなに声をかけとる。今年の年男の対象者は俺の一つ下、玲子の代よ」
「じゃあ、クラスの皆んな集まるの?」
「そうさ、皆んなとはいかんけどな。真司や浩や潤一郎も来ていて、今朝は早くから寒い中、小栗さんにつかまって禊をさせられとった」
小栗さんというのは永年寺の住職で、昔は小学校の先生もしていた。厳しいことで有名な人だった。
「じゃあ、静香ちゃんや葉子ちゃんも来るの?」
「おお来るとも……全部で七名くらいになるかな。それに俺たちの代の信助が加わって、祭りが終わったら、同窓会やろうと思っとる。とても盛大とはいえんけど、ちょっと村の金も使えるしな……」
「楽しみだわ。皆んなに会えるなんて。私、三年生でこの村出てから、誰にも会っとらんよ。皆んな変わったろうね」
「信助は頭少しハゲ出してきたな」
 ハゲ頭の少年の顔が頭に浮かんできて、私は笑いこけた。大友信助くんか……遺伝だろう。彼の父親の頭が禿げ上がっていたから。信助は一級上で、子供の頃から細い柔らかな髪の毛をしていた。猛の一の子分で、奴隷のようにこき使われていたのを思い出す。

  • 筆者
    office-labyrinth
« »

サイトトップ > 小説 > 遠山ケイ > 紫色の夢 > 祭り > 第四話 祭り③