(二)人間のセックスは異常である

単純な性活動は、エロティシズムとは異なる。前者は動物の生活の中にあるものであって、おそらく、ただ、人間の生活だけが、エロティシズムという名にふさわしい《悪魔的な》相を規定する活動を現すのである。

これはフランスの哲学者ジョルジュ・バタイユの言葉である【1】。人間の三大欲求は「食欲」「睡眠欲」「性欲」だと言われるが、その性欲からもたらされるセックスのあり方が、人間と他の動物とでは違うというのだ。そして、それは悪魔的な相を規定するのだという。今回はこのテーマについて研究してみよう。

動物には発情期がある。例えば池上【2】によれば、

「妊娠期間が約1年のウマや数週間のハムスター、孵卵期間の短い鳥類などは、日が長くなる春から夏に繁殖活動を行うため長日繁殖動物といわれている。一方、妊娠期間が約半年のヒツジやヤギは秋から冬の日の短い季節に繁殖活動を行うため、短日繁殖動物といわれている。いずれの場合も、春から夏にかけて出産し、餌が豊富なよい条件下で仔が成長できるように遺伝的にプログラムされている。」
このように人間以外の動物は繁殖期以外にはセックスしない。ところが、よくご存じのように、人間には、一年中いつでもセックスに耽るのである。

「銃・病原菌・鉄」で有名なジャレッド・ダイアモンド【3】は「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか?」という本の中で次の様に書いている。

「地球に存在する推定三〇〇〇万種の動物の標準から言えば、人間の性的特徴はきわめて異常だからだ。数百万種におよぶ植物や菌類、微生物の標準と照らしてもそうだ。」

では、どう異常なのか?

前掲の本によれば、哺乳動物の標準的な性的特徴は以下である。

①家族を作らず、オスとメスがつがいで行動しない。オスとメスが出会うのは交尾の時だけ
②オスは子育てをしない。オスが配偶者に与えるものは精子だけ
③交尾は群れメンバーの見ている前で行う(チンパンジーなど例外はある)
④メスはさまざまなシグナルを発して、受精可能な排卵時期であることをまわりに伝える
⑤メスが交尾を誘うのは受精の可能性のある数日だけで、それ以外はオスを刺激するシグナルを出さない

つまり、動物にとってセックスは楽しむためのものではなく、繁殖という行為と直結するものだ。

これに対して人間は、

①長期間にわたり「結婚」というつがい関係を示し、それは相互義務をともなう契約とみなされる。夫婦は頻繁にセックスするが、その相手はおもに・必ずその配偶者である
②夫婦はセックスの相手であるだけでなく、その間に生まれた子供を育てるパートナーでもある
③男と女は夫婦となる、あるいは男と複数の女でハーレムを作るが、社会の一員として生活し、テリトリーを共有し合う
④夫婦はふつう二人きりでセックスし、他の人間がその場にいることを嫌がる
⑤排卵は隠されており、女はそれを宣伝するようなシグナルを発しない。また女は受胎可能なときだけ男を受け入れるのではなく、月経サイクルのほぼ全範囲でセックスする。ヒトは受精のためではなく、もっぱら楽しむためにセックスする
⑥四十~五十代を過ぎると女は繁殖能力が完全に停止するが、一般的には男ではこうした現象は起こらない。

と真逆の行動を取るのだ。

次回は、どうしてこんなことになるのか、その理由について研究してみよう。

参考文献
【1】ジョルジュ・バタイユ 「エロスの涙」(森本和夫 訳)ちくま学芸文庫
【2】池上 啓介,吉村 崇「脊椎動物の季節繁殖の制御機構」日本生殖内分泌学会雑誌(2010)15 : 55-57
【3】ジャレッド・ダイアモンド「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか?」(長谷川寿一 訳)草思社

  • 筆者
    office-labyrinth
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