エロスの涙が滴る①
(一)
【後手縛り】 黒鬼の手帖から
数ある緊縛法のうちで「後手縛り」は基本中の基本をなすもので、様々なバリエーションを持つ。そもそも緊縛法の原点ともいうべき捕縄術が首を中心とした縛りであるのを、安全に十分な性的刺激が引き出せる様に改良したものなのである。「後手小手縛り」は文字通り背面(後手)で、両手首 (小手)を拘束するものであり、「高手縛り」では、両腕を交差させ、肘を直角に曲げ、地面と平行になるように縛る。縄尻を乳房の上下に通して二の腕とともに巻き、両腕を同じ位置に保持する。この「高手」の解釈には二派ある。ひとつは上述のもの、もうひとつは交差した手首を背面の高い位置に引き上げるものである。手首の位置については、被験者の身体の柔らかさと、調教の進み具合に応じた負荷の大きさを考慮して選択すべきであり、あまり呼称にこだわるべきではないと考える。
胸縄の脱落を防ぐため腕と胸の間に「閂」を通す。「閂」とは字の如く、門に備え付けられた横木であり、門が開かないように左右に差し渡すものである。後手縛りの場合には縄頭を背中から脇の下に通して、二の腕と胸とを通る縄に上から下へ差し渡したのち、腕と胴の間を戻して背面で締める。これにより胸縄や腕縄がしっかり締まって、拘束度が増すのである。乳房の上部を通る縄に施すか、下部を通る縄に施すかは状況によって異なる。下部を通す方が拘束力が大きくなるが、ケースに応じて使い分ければよいだろう。
後手縛りには通常は二本の縄を使い、一本目で手首と乳房の上部、二本目で下部を縛る。更に三本を使う場合には、三本目をいろいろな目的で使える。例えば、背中から肩越しに正面へ廻し、乳房下を締める縄まで下ろして、中央部に縄をくぐらせて折り返し、肩から下りる縄の間を通し捩った後、もう片方の肩越しに背面へ動かして縛る。こうすることで乳房が絞り出され、性感を増大させることができるのである。また、梁などを利用した吊り縄とすることもできる……
「立てっ」と竜造の声。
玲子は起き上がる。途端、バランスが崩れヨロヨロとよろけたが、なんとか畳の上に立った。さきほどまで縛り付けられていた椅子はどこかへ片付けられてしまっていて、夏の庭がよく見えた。
「手を後ろに廻せ」
いわれた通りに身体が動いてしまうのが不思議だった。両手を背中に廻して、腰の上に置く。
腕を持ち上げ、両手首を交差させる。
「じっとしていろ」
ヒュッという音がして縄が飛び、その先端が畳の上に落ちた。手首を掴まれ、縄が巻かれていく。身体の固さ具合を調べているのか、何回か手首が押し上げられた。