第一話ミッキーマウス③

2019年11月06日

体育の授業は二クラス合同で行い、着替えは男女別に教室を分けて行っている。
私の教室は女子の更衣室になっていたので、隣の四組の女子がやってきた。
瑞穂ちゃんや祐子ちゃんは四組の女子で、教室の中に入ってくると、はじめは何が起こっているのかわからなくて、キョトンとしていたが、私が下半身剥き出しで床のふき掃除をしているのを見て、
「お漏らししちゃったんだあ」といった。
京子ちゃんが自分の作品を自慢したくて、私の方に近づいてきて、
「玲子ちゃん、ね、見せてあげてよ」と頼む。
瑞穂ちゃんと祐子ちゃんは興味津々、
「ねーねー、どうなってるの」と聞いてくる。それで仕方なく、私の下半身を見せてあげると、二人ともお腹を抱えて笑いころげた。

どうしてみんなこんなんだろう? どうして私のことをこんなに笑いものにするの。自分がこんなめにあったらイヤなのに。

私は恨めしそうに二人を睨んだ。でも、着替えの時間が残り少ないので、二人とも私を無視して、すぐに運動服に着替え始めた。

床掃除はなかなか終わらない。
雑巾でオシッコを拭き取っただけでは、臭うのでさらに水雑巾で拭きあげる。どうもたくさんお漏らししたのか、飛んだ向きが悪かったのか、オシッコがいろんな場所に飛び散っていて、お掃除にずいぶんと時間がかかった。
私は気が気じゃなかった。
だって、クラスのみんながどんどん着替えて、運動場に出て行ってしまったから……。
床を拭き終えた時にはもう誰も残っていなかった。急いで席に戻って、カバンを開けて、運動着を取り出そうとして、私はあわてた。体操服の上着はあるんだけど、下のブルマがない。穿いていた濡れたパンツとスカートもなくなっていた。誰かが隠してしまったんだ。

どうしょう。私はあせった。でも、どうにもならない。私はあきらめて、とりあえず、上だけ運動着に着替えた。

外に出ると、みんなは運動場で準備運動をしていた。みんなのいるところに行く。私の姿を見て、みんないっせいにゲラゲラ笑った。
野本先生は女子体育大学を出て今年入ってきた体育の先生で、ちょっとお尻が大きい。私を見ると、
「まあ、なんてかっこうなの!」とあきれたようにいった。無理もない。だって、私は上は運動着を着ているけれど、下半身は剥き出しで、さらに毛の生えていないアソコにはミッキーマウスが描かれているんだから……。
「遅刻よ! ちゃんと時間を守らなきゃ、いけないわね。そのかっこうもどうかな。それって新しいファッション?」
そんなわけないでしょ! と、いってやりたかったけど、私は喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
「それじゃちょっとね。みんなと一緒に授業を受けるのはどうかな。遅れてきた罰として運動場をいいというまでまわってらっしゃい」と先生は私に命じた。
私は、「わかりました――」といって、運動場のまわりを、みんなから離れて、仕方なく走り始めた。
一周、二周、三周と走り続けた。
みんなはバレーボールの練習をしている。私もやりたいな、と思ったけれど、なかなか呼んでくれない。男子は運動場の半分を使ってキャッチボールをしている。私はそんなみんなのまわりをひたすら走り続けた。時々みんなが、私の方を見て、ニヤニヤしたり、隣の子とヒソヒソ話している。
もう何周したのか、呼吸いきが苦しくなってきた。脚もあまりあがらない。お腹も痛く、腰に手をあてて、ドタドタとしか走れない。
耐えられなくなって、歩き始めた。最初のうちは、走らなきゃという意識が強くて、少し歩いては、また走り出したていただけど、そのうちにそれも苦しくなって、歩くだけになってしまった。
「玲子ちゃん、サボってる」という声が聞こえて、みんなの視線を感じた。それでもかまわず歩いていると、野本先生が怖い顔で走ってきて、
「ダメじゃない、ちゃんとやらなきゃ!」と、いうなり私の頬を平手で撲った。
「先生、もう走れません――」と私がいうと、先生は
「本当にダメな子ね。あきれてものがいえないわ」と、吐き捨てるようにいった。
先生に引っぱられて、私は鉄棒のところまで行った。

健太君とさとし君がキャッチボールをしていた。先生は二人に声をかけた。
「君たちィ、ねえ、手伝ってくれる?」
「ハイ、先生。何をすればいいんですか?」
「そうね、さとしは用具室に行ってロープを取ってきてくれるかな。健太は力が強いから手をかしてね」
さとし君はすぐに用具室へ走り去った。
野本先生は健太君を鉄棒のところに呼ぶと、私をだっこするようにいった。健太君は私のお腹のところに腕をまわりして、背中から私を抱え上げた。
「ちょっと、こっちに連れてきて」
野本先生が一メートル五十センチくらいの高さの鉄棒のところから声をかけてきた。
「もうちょっと、持ち上げて」
健太君がいわれたとおりにすると、先生は私の脚をさらに上に引っ張り上げて、ふくらはぎのところを鉄棒に引っかけて、ヒザの後ろ側に鉄棒がくるようにした。
さとし君がロープを持ってやってきた。
「ありがとう」先生はさとし君からロープを受け取ると、私の右手と右足首、左手と左足首をそれで縛ってしまった。そうして、少し離れて、鉄棒から逆さにぶら下がった私を眺めて、「これじゃ、痛いわね」と、脚と鉄棒の間にタオルをはさんでくれた。
野本先生はできあがり具合を確かめて、満足そうに、
「これでいいわ。悪い子はしばらく、そのままにしてらっしゃい」といって、再びバレーボールをしているみんなの方にかけて行った。

  • 筆者
    office-labyrinth
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