(四)万葉時代の男女の交わり
前回、われわれの祖先たちが「乱婚」から「ハーレム婚」へと移行していったと書いた。
「乱婚」とは、男女が特定の相手を定めずに交わう結婚形態、「ハーレム婚」とは男が複数の女をしたがえる一夫多妻の結婚形態のことである。
ところが、日本の場合はやや様相が異なる。わが国においては、古代には「妻問婚」と呼ばれる「多夫多妻」型の婚姻形態とられていたのだ。今回は、これについて、とくに万葉時代にスポットを当てて研究していこう。
文献【一】によれば、
「万葉時代の全階層を通じた一般的な結婚形態は、夫婦が同居せず夫が妻のもとに通う『妻問婚』と呼ばれるものであった。」これは「母系婚」「通い婚」とも呼ばれる。
結婚は本人同士の合意で成立するが、夫婦は同居する必要はなく、それぞれが属する氏族で生活を行っていて、セックスの為に夫が妻のもとに通うのである。そして夫婦の間に生まれた子供の養育は母方の氏族で行う。
「妻恋婚」は恋愛感情だけが絆であるが故に、夫婦関係の結合は弱く、離合が容易な点が特徴としてあげられる。
つまり、男が女のもとに通わなくなる、または女が男を門から追い返すなどすることで、夫婦関係が解消する。これをダイレクトに「床離れ」「夜離れ」などと表現する。文字通りセックスが主体の原始的な離婚となる。
男が相手に自分の名を名乗って求婚し、女がそれに答えて名を名乗ればれば恋愛・結婚が成立する。古代、名前には霊魂が宿るとされ、女が名を名乗れば相手に魂を捧げることになって求婚の受諾となる。すなわち、男女間の約束「目合(まぐわい)」の成立である。「目合」は男女がお互いに目を見合わせて愛情を通わせることで、すなわちセックスの意味なのだ。
求愛、求婚を示す言葉が「よばい」である。これは、夜に女のもとに忍び込むという「夜這い」ではなく、文字通り「大きな声を上げて物をいう「呼び合い」である。また、「とつぐ」も単純にセックスの意味だという。
「妻問」は結婚後の訪問であり、男は人目をはばかって夜、女のところにやってきてセックスし、朝には帰って行く。
男は女のところに行くのが待ち遠しく、女も男が来るのを今か今かと待っている。この男と女の様々な気持ちが歌に詠まれているのだ。
このような「妻問い」は万葉の終わりまでで、平安時代になると通いと同居が半々位になり、「家」の存在が強くなるのだという。
さて次回は、実際に「万葉集」の和歌にこの事がどう表れているか、みていくことにしよう。
参考文献
【一】高嶋めぐみ「妻問婚にみる求愛求婚行為再考」苫小牧駒澤大学紀要 第十号(二〇〇三)