(十一)家持部下を叱る
万葉集の巻十八に次の様な歌がある。長いが、全文を示しておく。
史生尾張少咋を教喩す歌一首、また短歌
七出の例に云はく、
但一条を犯せらば、即ち出るべし。七出無くて輙ち棄らば、徒一年半。
三不去の例に云はく、
七出を犯すとも、棄るべからず。違へらば、杖一百。唯奸悪疾を犯せれば棄れ。
両妻の例に云はく、
妻有りて更に娶らば徒一年。女家は杖一百にして離て。
詔書に云はく、
義夫節婦を愍み賜ふ。
先の件の数条を謹み案ふるに、建法の基、化道の源なり。然れば則ち義夫の道、情存して別無く、一家財を同じくす。豈旧きを忘れ 新しきを愛しむる志あるべしや。所以数行の歌を綴作み、旧きを棄る惑を悔いしむ。その詞に曰く、
四一〇六
大汝 少彦名の 神代より 言ひ継ぎけらく
父母を 見れば貴く 妻子を見れば 愛しくめぐし
うつせみの 世のことわりと かくさまに 言ひけるものを
世の人の 立つる異立て ちさの花 咲ける盛りに
愛しきよし その妻の子と 朝宵に 笑みみ笑まずも
打ち嘆き 語りけまくは とこしへに かくしもあらめや
天地の 神言寄せて 春花の 盛りもあらむと
待たしけむ 時の盛りを 離り居て 嘆かす妹が
いつしかも 使の来むと 待たすらむ 心寂しく
南風吹き 雪消溢りて 射水川 浮ぶ水沫の
寄る辺無み 左夫流その子に 紐の緒の いつがり合ひて
にほ鳥の 二人並び居 奈呉の海の 奥を深めて
惑はせる 君が心の すべもすべなさ 佐夫流ト言フハ、遊行女婦ガ字ナリ
反し歌三首
四一〇七
青丹よし奈良にある妹が
高々に待つらむ心しかにはあらじか
四一〇八
里人の見る目恥づかし左夫流子に
惑はす君が宮出後風
四一〇九
紅はうつろふものそ橡の
なれにし衣になほしかめやも
右、五月の十五日、守大伴宿禰家持がよめる。
この歌はいったい何だろうか?
作者は大伴家持。彼はこの時越中国司だった。その家持が部下の尾張少咋を「教喩(教え諭す)」するとなっている。
では、いったい何を「教喩」するのか?
尾張少咋が可愛い正妻がいるにもかかわらず、「佐夫流」という名の「遊行女婦」にうつつを抜かしているのがけしからんというのである。
次回、もう少し詳しくみていこう。