第四話 祭り①
(一)
ズンズン……ズンズン……ズン
低い音が村中で響いている。いや、私の頭の中で響いているのだろうか?
それは執拗に繰り返され、私の身体に響きわたる。その明確に刻まれるリズムは身体を揺さぶるようだ。
ズンズン……ズンズン……ズン
子供の頃にこの音を聞いた事が思い出された。記憶の片隅に追いやられていた事柄が、この村に戻ってきて、この音とともに、私の中に蘇ってきた。
きょうはあの祭りの日……
そう、それはこの山深い村の、裸祭りで使われる太鼓の音なのだ。
毎年三月に、五穀豊穣を願って行われる、裸祭り。全国各地でいろいろな裸祭りがおこなわれているが、この村の祭りは、ほとんど人に知られていない。なぜなら、村の人々はその祭りのことを語りたがらないからだ。村の住民の間だけで、毎年ひっそりと行われる奇妙な祭り……私はその祭りの日に、この村に帰ってきたのだ。
ズンズン……ズンズン……ズン
私は小学校の前でバスを降りた。三月に入ったがまだ寒い。道の脇に集められた雪は、かなりの量が残っていて、冬の間の積雪の多さを物語っている。
小学校は小さく、全てが見渡せるようだった。大きな建物、高い階段、広い運動場という私のこの学校についての記憶は、すべて小さな子供の視点からのものだったのだ。建物も朽ち果て、相当の年月を感じさせる。予算がないのか、ほとんど修理の手が加えられていない。
私は、ここにしばらく通っていたのだ。三年生の途中で、私たちは追い出されるようにしてこの村を後にした。
この村は母が生まれ育った村……そして、私が生まれた村でもある。
ズンズン……ズンズン……ズン
村の人達は祭りを大切にしていた。この祭りの主役は、その年に成人を迎える男達で、祭りの日まで、冬のさなかにいろいろな荒業が義務付けられていた。
裸になって凍てるような滝の水に打たれ、雪の中に半身を沈めて禊をする。そのようにして、すべての汚辱を祓ったのち、男達は神札を求めて競い合い、その札を奪った勝者が年男となる。年男の栄誉を獲得した男は、神にその年の五穀豊穣と村の安寧を祈願するのである。
しかし、そういった表向きの神事とは別に、何か得体の知れない秘め事が行われている、という話を聞いた事がある。そしてそのため、それを知っている村の人達は、この祭りを村の中だけの秘事として隠し通しているというのだ。
私は子供だったので、本当のところは、はっきりとは分からない。ただ、私たち、子供の間でもいろいろな噂が立っていた。それは、毎年、年頃の女の人がこの祭りの時期に、村からいなくなる――というものだった。