第四話 祭り②
小学校の前を通り、よろずやの角を曲がる。そこには母の生家がある。今は母の妹の珠江さんの家だ。珠江さんは、私たちがこの村を出て行った後も、我慢強くこの地で頑張っていた。今は、先ほどの小学校に、国語の教師として勤めているはずだった。
「今日は、誰かいます?」
格子戸を開けて、薄暗い室内に声をかけた。しばらくして、中から痩せた女の人が現われて、私の顔を見て怪訝な顔をしていたが、急に驚いたような表情になった。
「玲子ちゃん?」
「はい」
「やっぱり、玲子ちゃんね。まあ、大きくなって、すぐにわからなかった。綺麗になって……ひさしぶりね」
「母の葬儀以来だから、もう十年になります。叔父さん、お変わりありません?」
「ありがと。元気は元気だけど、えろう年とったわ。で、なんでここへ?」
「それが……ここに帰ってこいと役場から、手紙もらったんです」
「役場から?」
叔母は顔を曇らせた。
私は叔母に先月受け取った手紙を見せた。それには、成人を祝うとともに、祭りに合わせて、村から離れている人を集めて、祝賀会を取り行うので、是非、出席して欲しいと書かれていた。
「へえー! 祝賀会ね。それで、わざわざ東京から……」
「ええ、私、ここに来る事、叔母さんに連絡しようと思ったんですけど、宿は役場で用意する、と書いてあったんで、とりあえずこちらに来たんです。突然でごめんなさい……」
「でも、宿を用意するといっても、どこに泊まるかね。ここは、あんたの生まれた家なんだから、ゆっくりとしたらいい。まあ、こんな寒いところにほっておいてごめんね……上って暖まって。ちょっとは暖かくなったけど、外はまだ寒いでしょ」
叔母は私に中に入るように勧めた。私は座敷に上がって、勧められるまま、座布団に座った。
「この辺りは、昔とちっとも変わりませんね……」
「それが問題よ。人が減ってしまって……特にこれといった産業がないでしょ、若い人はみな村を出て行って、村に残ってるのは老人ばかりね」
「叔母さんはまだ小学校?」
「そう。でも、子供が減って、全校で十人ほどしかいないの。もう、来年は廃校。隣町の小学校と一緒になるんだって」
「そう、わたしの時は各学年で十名だったから、六十名はいたわ……」
「そうだわね、あの頃は多かったわ」
「皆な、どうしているかな? 静香ちゃんとか、葉子ちゃんとか?」
「出て行ってしまっていないわ。佐々木さんとこの静香ちゃんは確か、東京にいるようよ。三石さんのとこは家族揃って村を出てしまって、もうだいぶになる」
「あの頃の友達だと、誰が残っています?」
「そうね、少ないわね。そうだ……猛さんは玲子ちゃんの一級上だっけ? 彼はこの村にいるわ」
「猛ちゃんか……いつも苛められていたわ……」
猛の顔を思い出そうとするが、なかなか出てこない。名主の息子で、その関係でいつも、たくさんの子分を引き連れていて、何回も泣かされた事が思い出される。
「今は役場で働いているわ。お父さんが村長だしね……」
「じゃあ…この通知は?」
「猛さんが出したものかもね。確か、彼が祭りの実行委員だから」
叔母はそういいながら、顔を曇らせた。
「あんた……帰って来なかった方がよかったんじゃない」
「どうして?」
「いや、こんな寂しい村に帰ってきて、どうするのかなと思って……玲子ちゃんに会えたのはとうれしいんだけど……」
叔母はなにかいいにくそうに弁解した。
「で……どこに集まるの?」
「まずは、二時に役場に行く事になっているんです。お祭りは何時からですか?」
「七時からが本番だけど、五時頃から、お寺の境内は賑やかになるわ」
「楽しみだわ。じゃあ、役場の方に行ってみます」
私は立ち上がった。玄関へ行こうとすると、後ろから叔母が、
「玲子ちゃん……気をつけてね」
と声をかけた。切迫した感じだった。驚いて振り返ると、
「いやね……わたしったら。ちょっと考えすぎだわ。大丈夫。お祭り、楽しんでね……」
と笑顔に戻った。その硬い感じが気になったが、思い直して、私は叔母の家を後にした。